2013-03-09
1票の格差
最近,高等裁判所で,昨年(2012年)に行われた総選挙(衆議院議員選挙)を違憲とする判決が相次いでます。
違憲の理由は,1票の価値が平等でないからです。たとえば,A選挙区では,15万票で当選するが,B選挙区では5万票で当選する,とするとA選挙区の1票の価値は実質的にはB選挙区の3分の1のしかないことになり,不平等です。
本来,日本の裁判所は国政に関することに違憲判決を下すことに非常に消極的です。これは,国政に問題があれば,国民が選挙で正せばいいという考えに基づきます。ところが,この選挙制度が不平等な制度であれば,選挙で国民の意思が反映されず,この選挙の正す機能が発揮されません。したがって,選挙制度に関しては,裁判所は積極的に違憲の判断することになります。
今回問題となった総選挙は,すでに最高裁判所が違憲判断を下した状態の選挙区割で選挙が行われており,違憲判断が下されてもやむを得ない選挙でした。
一方,選挙権を完全に平等にすると,選挙民が少ない過疎地から衆議院議員が選出されない,という危惧もあります。ところが,現在の選挙区割は,過疎地を保護しているわけでもありません。たとえば,過疎地である島根県の1票の価値を1とした場合,東京の投票価値は約5分の1です。これは,過疎地の議員確保という目的からはやむを得ない結果とも感じられます。ところが,同じ過疎地を多数抱える北海道の1票の価値も島根県の5分の1しかないのです(現代人文社刊 清き0.6票は許せない! 27頁)。
このように,問題となった総選挙は,過疎地保護という目的からも合理性が認められないのです。そうだとすれば,この総選挙は「無効」と判決すべきようにも思われます。ところが,いずれも高等裁判所もこの総選挙を無効とまでは判決していません。これは,無効判決を下した場合,その判決までに成立した法律は無効となるのかなど,種々の問題が生じるからです。